アレルギー性疾患を患った犬の腸内環境の変化が明らかに ―アレルギーに関わる腸内細菌と脂質代謝の変化が見えてきた―
2026-05-12 · Yakult Honsha Co., LTD · original yakult.co.jp ↗
1 / 4 PRESS RELEASE 2026 年 5 月 12 日 国立大学法人 東京大学 株式会社ヤクルト本社 アレルギー性疾患を患った 犬の腸内環境の変化 が明らかに ―アレルギーに関わる腸内細菌と脂質 代謝の変化が見えてきた ― 発表のポイント ◆アトピー性皮膚炎と食物 有害反応を患った犬では、 健常な犬と比べて、 腸内細菌の種類が大幅 に減っていることを明らかにしました。 ◆腸内細菌が作る脂質 (脂肪酸) 代謝物を見たところ 、腸の健康維持に関わる酢酸、プロピオン 酸、 酪酸といった短鎖脂肪酸 が減る一方、 炎症やアレルギー反応 に関わる脂肪酸代謝物 が増え ていました。 ◆人と生活を共にする犬でもアレルギーは増えており、その原因として、 腸内環境の乱れと炎症 に関わる脂質(脂肪酸)代謝の変化がある可能性が示されました。 ◆これらの結果は、犬の 便を用いた アレルギーの 検査法や新しい治療法の開発につながることが 期待されます。 概要 人と共に生活する犬でもアレルギー 性疾患の罹患率が上がっており、生活環境の変化が その発 症に関与することが示唆されています。 国立大学法人 東京大学(総長 藤井 輝夫)と株式会社ヤ クルト本社(社長 成田 裕)は、東京動物アレルギーセンターとの共同研究により、 犬のアトピ ー性皮膚炎と食物 有害反応(食物アレルギー )(注1)の両方を患う 犬について、便の中の腸内細 菌、短鎖・長鎖脂肪酸 (脂質) の代謝物をまとめて調べました。その結果、病気のある犬では腸 内細菌の多様性が低く、 短鎖脂肪酸である 酢酸・プロピオン酸・酪酸 の量が減っていました。一 方で、炎症 やアレルギーの発症 に関わる長鎖脂肪酸の代謝物 が増えていました。これらの結果か ら、犬のアレルギー病態には「腸内環境の乱れ」と「 腸における 脂肪酸代謝の変化」が深く関わ る可能性が示されました。本成果は、便を使った新しい病態評価法や治療法の開発につながるこ とが期待されます。 図 1 本研究の概念図(便中腸内細菌叢・短鎖脂肪酸・ 長鎖脂肪酸代謝物の 解析) 2 / 4 発表内容 【背景】 近年、人に加えて、 犬でもアレルギー 性疾患が増加しており、なかでもアトピー性皮膚炎と食物 に対するアレルギー性の 皮膚症状(食物有害反応 ・食物アレルギー )を同時に発症する犬が増え ています。人と同様に、 犬のアレルギー 性疾患でも、腸内細菌のバランスの乱れが 病態に関係す ると考えられてきました が、その実証例は少なく、また、腸内細菌のバランスの乱れが、どのよ うにしてアレルギー疾患の発症につながるのか、よく分かっていませんでした。 【手法と結果】 研究グループは、 アトピー性皮膚炎と食物有害反応 を併発した犬 8 頭と健常犬 9 頭を対象に、腸 内細菌の解析、短鎖脂肪酸 (9 種類)の測定、長鎖脂肪酸とその代謝物(198 種類)の測定を行い ました。その結果、 1. 病気のある犬では腸内細菌の多様性が低く、細菌の構成も健常犬とは異なっていました。 2. 便の中の短鎖脂肪酸 (注2)の総量が低下し、とくに酢酸、プロピオン酸、酪酸が有意に減 少しました。一方で、 コハク酸は増える傾向がみられました。 3. 長鎖脂肪酸 (注3)そのものには大きな差がみられなかった一方で、代謝物のうち、 リポキ シゲナーゼ(LOX)経路(注4)によって産生される、5-HETE(注5)、12-HETE、15-HETE な どの HETE 類や、LTB4 の代謝物の濃度が大きく増加していました。 これらは、 アレルギーを悪 化させることも報告されているものです。 4. AI を使って解析した結果、 便に含まれる脂質の変化のパターンから、 健康な犬と病気の犬を 区別できることがわかりました。将来的には、便を調べることで、犬のアレルギーの状態を 判断する助けになる可能性があります。 図 2 本研究で得られた主要データ 3 / 4 (A)腸内細菌叢の多様性低下と菌叢構成の変化 アトピー性皮膚炎と食物有害反応 を併発した 犬では、 健常犬に比べて腸内細菌の多様性が低下し、 腸の健康 維持に関わる菌が減っていました。 (B)短鎖脂肪酸の低下 酢酸やプロピオン酸の低下は、腸内細菌のバランスの乱れや腸内環境の悪化を反映していると考えられます。 (C)LOX 経路の脂肪酸代謝物 の上昇 便の中では複数の炎症関連脂質が増えており、アレルギー病態に関わる脂質の変化が起きていることが示さ れました。 【社会的意義と今後の展開】 国立大学法人東京大学 本研究は、人と共に生活する犬でも、 アレルギー 性疾患が増えており、その発症に 腸内環境の乱 れとそれに同期した腸管内の脂肪酸代謝の変化が 関連していることを示した点で重要です。便を 使うため犬への負担が少なく、将来は診療の現場で病気の状態を把握したり、治療の反応を モニ タリングする方法につながる可能性があります。また、 これらの成果は人 のアレルギー研究にも 役立つ知見になると期待されます。今後は、より多くの犬で検証を進めるとともに、食事や薬の 条件をそろえた研究を行い、便中脂質と腸内細菌を用いた新しい診断法や治療標的の開発を目指 します。 株式会社ヤクルト本社 本研究成果は、 人と生活を共有する犬のアレルギー 性疾患発症と腸内環境の関連を示す知見であ り、腸を起点として動物の健康維持・予防を目指す新たなアプローチにつながると考えます。 ま た、これらの知見を基盤として、生活の質の向上に寄与する新たな機能性素材の研究開発を推進 し、ソリューション創出を目指します。こうした取り組みは、当社が掲げるコーポレートスロー ガン「人も地球も健康に」の実現にも合致するものです。当社は、人だけでなく、動植物や環境 に対しても、等しく健康であることが重要と考えており、今後も微生物研究を核とした研究開発 を通じ、人のみならず動物の健康の維持と向上に貢献するとともに、新たな価値創出に取り組ん でまいります。 〇関連情報: 1. 国立大学法人 東京大学大学院農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室・獣医薬理学研究室 https://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/houshasen/ 2. 国立大学法人 東京大学大学院農学生命科学研究科 食と動物のシステム 科学研究室 https://square.umin.ac.jp/food -animal/index.html 発表者・研究者等情報 国立大学法人 東京大学 大学院農学生命科学研究科 林 亜佳音 特任研究員 小林 幸司 特任講師 村田 幸久 准教授 東京動物アレルギーセンター 川野 浩志 獣医師・博士 4 / 4 株式会社ヤクルト本社 中央研究所 柿山 明香 指導研究員 水澤 直美 上席研究員 小林 稔秀 特別研究員 加賀 千晶 主任研究員 論文情報 雑誌名:Allergy 題 名:Fecal Lipid Metabolites and Microbiota Alterations in Dogs with Concurrent Atopic Dermatitis and Adverse Food Reaction (5 月 12 日付掲載) 著者名:Akane Hayashi, Sayaka Kakiyama, Koji Kawano, Naomi Harima -Mizusawa, Toshihide Kobayashi, Chiaki Kaga, Koji Kobayashi, Takah isa Murata* DOI:10.1111/all.70370 研究助成 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業( 20H05678, 25H00430 )および JST A -STEP (JPMJTR22UF )の支援により実施されました。 用語解説 (注1) 犬のアトピー性皮膚炎と食物有害反応(食物アレルギー):犬が頻繁に発症するアレルギ ー性の皮膚炎 をさします 。 (注2)短鎖脂肪酸:腸内細菌が食物繊維などを分解して作る物質。酢酸、プロピオン酸、酪酸 などがあり、腸の健康維持や免疫の調節に関わります。 (注3)長鎖脂肪酸 :主に食事中の脂質から取り込まれる、炭素鎖の長い脂質の一種。体内では エネルギー源や細胞膜の構成成分として働くほか、その代謝物は 炎症や免疫反応の調節 に関わります。 (注4)リポキシゲナーゼ(LOX) 経路 : 体内で炎症に関わる脂質が作られる仕組みの一つです。 (注5)HETE:ヒドロキシエイコサテトラエン酸 を意味します 。
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